header_image

マングローブに関するものしりコラム

マングローブ林の恵み
マングローブ林は生き物の命のゆりかご

汽水域に生育するマングローブは生物の多様性に富んだ、とてもユニークで…

  
マングローブ林の現状
世界のマングローブ林の面積について

World Atlas of Mangroves(2010)によるとマングローブ林の分布は…

  
マングローブ林の恵み
マングローブ生態系がもたらす豊かな恵みを試算すると?

マングローブ林の河川に棲む多くの生き物だけではなく、熱帯・亜熱帯の沿岸地域に住む人々も…

  
マングローブ林の恵み
ブルーカーボンとマングローブ

地球温暖化が深刻さを増す昨今、気候変動に関わる話の中で「ブルーカーボン」という言葉がよくでてくるように…

  
マングローブ林は生き物の命のゆりかご

汽水域に生育するマングローブは生物の多様性に富んだ、とてもユニークで豊かな生態系を作り出しています。

満潮時になるとマングローブ林は海水に満たされるので、その水中を覗いてみると、なんとも賑やかな光景が広がります。入り組んだ根の間には、たくさんの小魚が捕食者である大きな魚から隠れようと身を寄せあいながら、小さな動物プランクトンなどを食べています。また、貝類・カニ・ヤドカリの仲間などが根にしがみ付き、マングローブの根や幹に生えている藻類などを食べている様子も見られます。

干潮になると、干潟では、砂の中の小さくなった木の葉や生物の死骸などのデトリタスと呼ばれる微細な有機物を食 べているミナミコメツキガニやハクセンシオマネキがいたり、マングローブの落ち葉を食べるアシハラガニモドキやキバウミニナがいたり、干潟を跳ね回るミナミトビハゼがいたり、そしてそれらを捕食するサギやシギなどの鳥類も集まってきます。

このような多様な食べるものと食べられのもののつながりである食物連鎖を支えているのは、マングローブの木からの落ち葉や、生物の死骸などが小さく分解されたデトリタスなのです。マングローブが生えていることで、豊かな生 態系が形成されるので「マングローブ林は海の命のゆりかご」とも言われます。

満潮の様子(キリバス)
満潮の様子(キリバス)

干潮の様子(キリバス)
干潮の様子(キリバス)

世界のマングローブ林の面積について

World Atlas of Mangroves(2010)によるとマングローブ林は世界123ヵ国/地域での分布が知られ、総面積は約152,000km2、世界の熱帯雨林の1%、世界の森林総面積のわずか0.4%の面積しかありません。世界の多くの国々でマングローブ林の保全や再生に取り組んでいますが、今日でも年間1%の割合で減少していると推定されています。世界のマングローブ林の詳しい分布については、国立環境研究所が運営している『熱帯・亜熱帯沿岸生態系データベース: Tropical Coastal Ecosystems Portal (TroCEP)』(https://www.nies.go.jp/TroCEP/index.htmlをご覧ください。

西表島のマングローブ林
西表島のマングローブ

マングローブ生態系がもたらす豊かな恵みを試算すると?

マングローブ林の河川に棲む多くの魚やカニや鳥だけではなく、マングローブ林の広がる熱帯・亜熱帯の沿岸地域に住む人々もまた、マングローブ生態系がもたらす豊かな恵みを受けています。

マングローブの茂る河川や沿岸域で漁をしたり、マングローブの材で木炭を生産したり、その材を燃料や柱などの建築材と利用したり、材が舟材としても使われることもあります。ヒルギダマシの葉は家畜の飼料として、ホソバマヤプシキの果実はジュースに利用されてきましたが、最近ではホウガンヒルギ抽出物の抗菌作用、シマシラキの抽出物質の肺がん抑制の可能性なども注目されてきています。ヤエヤマヒルギやオヒルギの樹皮は染料に、ヒルギダマシの林では養蜂なども行われます。

それだけではありません。マングローブ林の河川を利用しての観光船やカヌーツアーを使ってのレクリエーションエコツーリズムや環境教育の場も提供しています。また、マングローブ林があることによって、高波などから沿岸にある家々や農地も守られています。それらマングローブ生態系が私たちにもたらす恵みを経済的な価値を金額に換算した場合、1ヘクタール2,000-9,000ドルとも試算されています(Wells et al. 2006)。

マングローブ林を守ることは、マングローブとともに生きている多くの生物の多様性を守るだけでなく、沿岸に住む人々の 暮らしを守ることにも繋がっています。

マングローブの茂る川での漁(ミャンマー)
マングローブの茂る川での漁(ミャンマー)
マングローブ林を活用したエコツーリズム(西表島)
マングローブ林を活用したエコツーリズム(西表島)
ブルーカーボンとマングローブ

地球温暖化が深刻さを増す昨今、気候変動に関わる話の中で「Blue Carbon(ブルーカーボン)」という言葉をしばしば耳にするようになりました。 このブルーカーボンとは、一体何のことでしょうか? 2009年に、UNEP(United Nations Environment Programme:国連環境計画)が、「Blue Carbon: The Role of Healthy Oceans in Binding Carbon」と題した報告書を発表し、これまで見過ごされてきた海洋生物によるCO2吸収の役割の重要性を提唱しました。陸上の生物が貯留するカーボンは「Green Carbon(グリーンカーボン)」と呼ばれますが、この報告書の中では、陸域と海域を分け、海域で貯留されたカーボンを「Blue Carbon(ブルーカーボン)」と新しく名付けたのです。そして、海域のブルーカーボンには、海水の影響を受けているマングローブ、塩性湿地(salt marshes)、アマモなどの海草(seagrasses)、などによって貯留されたカーボンを含むとしたのです。 しかも、この報告書では「全球でのブルーカーボン量は、グリーンカーボンが貯留するカーボンの55%以上」とし、「特にマングローブ、塩性湿地、海草は、海底面積の0.5%に満たないにも関わらず、海洋堆積物中のこれら植生由来の炭素貯蔵量は、おそらく70%近くを占めている」と試算しました。つまり、これまで炭素の貯留源として見過ごされがちであった海域、特に太陽の光の届く浅海域での生物によるブルーカーボンの炭素貯留量が重要であることを指摘したので、ブルーカーボンが大きく注目されることになったのです。

ブルーカーボンとしても重要なマングローブ林
ブルーカーボンとしても重要なマングローブ林
地下部の炭素蓄積量が他の森林に比べ多いことが報告されている
地下部の炭素蓄積量が他の森林に比べ多いことが報告されている